コラム

【第5回】事例紹介:地域支援機関に寄せられる事業引継ぎのケース(後編)

前回から商工会・商工会議所といった地域支援機関に寄せられるスモールビジネスの事業引継ぎ相談の一事例をご紹介しています。

https://small-ma-jonan.cocotte.jp/column/archives/7

今回は前回の記事の続きとして、同ケースにおける事業承継時の留意点と専門家から見たポイントをまとめました。

② 事業継承時の留意点

【不動産オーナーへの事前連絡】

店舗不動産オーナーや主要仕入先に事業承継後の契約継続を確認する必要があります。実際に契約を継続してもらえないケースはあります。その場合は店舗移転が必要になるので計画の見直しが必要です。オーナーの了承を得たら新たに賃貸借契約を締結します。飲食店紹介サイトにもオーナー変更の届け出が必要になります。

【市役所や保健所への届け出】

市役所または保健所への相談も必要です。飲食店でオーナー変更があった場合は、新たに飲食店許可を取り直す必要があります。その際に店舗改修やレイアウト変更を求められることがありますので、その場合の費用の負担割合を決めておく必要があるでしょう。

【現オーナーとの契約と譲渡設備のリスト化】

事業譲渡を現オーナーとの口頭で済ませず、「事業譲渡契約書」を作成する必要があります。その書面で譲渡金額や譲渡品、譲渡日が契約として確定します。できれば契約書作成時には弁護士の指導を受けた方がよいでしょう。

現オーナーは相談者に「店内の機械什器備品はすべて譲る」と発言していますが、個人経営の店舗には代表者の私物が事業資産と混在しているのが一般的です。オーナー立ち合いの元で店内の機械や什器備品を確認しリスト化し、メンテナンスが必要なものは承継前に完了するように依頼します。

【税務署への連絡】

事業譲渡契約締結後に現オーナーは税務署に廃業届け、相談者は開業届を提出します。当店はパート従業員を雇用しているため社会保険事務局やハローワークへの届けも必要になります。事業承継後の円滑な店舗運営のためにも、できればオーナーにはスタッフとして店舗に残ってもらうのがよいでしょう。

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③ 専門家から見たポイント

 

今回は個人料理店のオーナー兼店長が長年一緒に働いた副店長に事業を承継させるといった「内部昇格」案件でした。そのため現オーナーと相談者が事業の内部・外部環境双方を把握しており、信頼関係があったことがプラスに働きました。相談内容にもその部分が反映されています。

【スケジューリングの確認】

飲食店のような店舗ビジネスには繁忙期と閑散期があることが多く、繁忙期に事業承継が重なると事務作業の停滞や日常業務に影響が出ることがあります。一般的なスモールビジネスの事業承継には最低3か月が必要になりますので、事前にスケジュール感を説明し繁忙期と重ならないかを確認する必要があります。

【必要な手続きの説明について】

一般的な事業承継は売り手と買い手がマッチングしてから、基本契約→デューディリジェンス(DD)→最終契約(事業譲渡契約)→事業譲渡といった4段階のプロセスを踏みます。約1時間の相談時間の制約上、もっとも重要な最終契約だけは行うように助言し、DDを「設備のリスト化」という言葉で簡易に説明して実行を促しています。オーナーと相談者の人間関係が希薄な場合は、改めて相談の機会を設定して4プロセスを一とおり説明する必要があるでしょう。

【バリエーションの妥当性について】

相談者からの質問は「相談者にとって300万円のバリエーションが妥当か?」というものでした。これに対してヒアリングで得た売上高とFL率、そして業界平均歴率から「妥当」という回答をしています。もし「双方にとって妥当な価格はいくらか?」という質問だった場合は、現オーナーの確定申告書から判断する必要があります。その場合提示価格より高い見積もりになったでしょう。

【公的支援機関サイドの事情】

商工会や商工会議所は事業承継に関するノウハウを持っている職員が少ない弱みがあります。年商数億円以上の企業からの相談であればM&Aコンサルティングを紹介する方法もありますが、本ケースのような個人店舗だと彼らのサービスがフィットしないことが少なくないため、中小企業診断士などの専門家にオファーがあるわけです。

支援機関の予算上の問題もあります。商工会や商工会議所は年間予算の一部を都道府県からの補助金で捻出しており、創業や事業承継といった国の政策との適合性が高い支援実績は評価が高くなることがあります。

地域支援機関にとって事業承継の相談は重要案件であることが多く、専門家はこうした点に留意して相談に対応する必要があります。

 

執筆者

浜野 厚太郎(はまの こうたろう)
中小企業診断士/スモールM&A研究会

中小企業診断士取得後に大手メーカで生産性改善のコンサルティングを行い、その後神奈川県の公的支援機関で14年間、融資業務や創業・スタートアップ支援、知的財産獲得支援、海外進出支援、経営企画業務を担当。

独立後はスタートアップや製造業の資金調達や事業計画作成を中心に、事業承継支援や省庁での公務、教育機関で経営人材の指導育成にも関わっている。

株式会社横浜みなとコンサルティング代表取締役

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https://yokohamaminato.com/