コラム

【第3回】事例インタビュー:中小企業診断士による事業引継ぎ(後編)

前編では、中小企業診断士としての活動と並行してスモールM&Aにより複数の事業を運営している木下さんが、どのように複数のM&Aを実行してきたかをお伝えしました。

後編となる本編では、木下さんの事業に対する考えや今後の構想などをご紹介します。

ネイルサロンでの改革

承継後にコロナ禍という環境変化に見舞われた木下さん。しかし、引継ぎ時点ですでに、サービス・価格のどこをどう変えればよいかの構想を明確に描いていました。ユーザーとしての利用経験があったことで、どのようなサービスをどの価格帯で提供すればお客様の支持を得られるか、イメージを持っていたのです。既存顧客が離れたことを変革の好機ととらえ、内装・サービス・価格・マーケティングを全面的に刷新し、新規顧客の開拓に邁進しました。サービス品質の向上と価格の見直し、マーケティング手法を変えたことで損益分岐点が下がり、コロナ後に客足が戻り売上が回復していくにつれ、収益の見通しがつくようになりました。

集客手法を見直す

集客のコンテンツは複数のチャネルに小規模に展開し、投資対効果が高い媒体を見定めながら運用改善を推進しています。承継時に利用していた広告プランは割高であったため、即時に安価なプランに切り替えました。費用対効果を検証しつつ、どの媒体にどの程度の予算を使うか、実験と検証を繰り返しながら広告費の最適化を図っています。この手法は、後のアクセサリーEC、リラクゼーションサロンにも応用しています。

やってみてわかった収益構造の違い:ネイルとリラクゼーション

木下さんは当初、ネイルとリラクゼーションは同じサービス業で顧客層や収益構造も似ていると感じていました。しかし、実際に事業運営をしてみて一番驚いたことは、ネイルサロンでは当たり前のように入っていた「次回予約」が、リラクゼーションサロンでは一向に入らないことでした。

ネイルは爪が伸びるため次回の施術が必須となりますが、リラクゼーションは「何か体の調子が良くないな」と思って予約を取るもの。施術が終わったところで次回予約を促しても、予約を入れる顧客は少ないのです。

当初は顧客層にシナジーがあるかもしれない、という仮説をもっていましたが、実際には顧客層がかぶることもなく、承継時に見込んでいた相互送客はほとんど実現しなかったのです。

EC運営の踊り場

EC事業では、仕入れ・商品開発とマーケティングの改善を行うことで、同業他社と比較しても一定の事業規模まで成長をさせることができました。ただ、さらなる事業成長を遂げるには、より踏み込んだ取り組みが必要と感じています。広告運用と物流は外注していますが、受注処理や顧客対応は木下さん自身が対応せざるを得ない状況です。人を雇用しても収益を成り立たせるには、事業規模を大きくする必要があり、今後の方向性を模索しています。

次の構想を描く

「常に新しいことに取り組みたい」という木下さん。今後は、ネイルサロンのフランチャイズ展開を検討しています。ネイルサロンについては何をどうすれば収益化するかのイメージがつかめており、このノウハウを横展開することで、事業拡大を目指しています。

木下さんの考えるスモールM&Aの要点とは

木下さんが感じているのは、「自分で商品・サービスの良し悪しがわかる領域で勝負したほうが良い」ということです。お金さえ払えば、スモールM&Aで事業オーナーとなることはできますが、重要なのは事業承継後の運営改善であり、商品・サービスの本質が理解できていないと施策が的外れになりかねません。

木下さん自身が経験した、ネイルとリラクゼーションの事業構造の違いのように、実際に運営をしてみて初めて気づくこともあります。スモールM&Aでは、事業の構造を見極めどんどん運営改善を進めていく実行力とスピード感が重要だと、木下さんは語ります。

まとめ

前編・後編の2回にわたって、中小企業診断士の活動と並行して複数の事業運営をされている木下さんの事例を紹介いたしました。逆境も追い風にして自分の構想をどんどん実現していく木下さんですが、肩肘を張ったところはまったくなく、「当たり前のことを当たり前にやっているだけ」といった淡々とした語り口でスモールM&Aと運営改革の内実を語ってくれました。

読者の中には副業・複業での事業運営を志す方もいらっしゃると思いますが、ここまでインタビュー記事をお読みいただいて、どのような印象を持たれましたでしょうか。まずはやってみて、ご自身の考える良い商品・サービスのためにどんどん改革をはかっていき、トライアンドエラーの振返りを仕組みにしていく、という木下さんの実体験には多くの学びがあったのではないかと思います。「事業をやってみたいが迷っている」といった方も、木下さんのように、まずはちいさな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。本記事がそのような一歩のきっかけになれば幸いです。


執筆者

江崎 大吾(えざき だいご)
中小企業診断士/スモールM&A研究会

EC・小売の領域で一貫して物流・ロジスティクス業務に従事。企画・管理から営業・オペレーションまで幅広く経験。2023年中小企業診断士登録。現在は、EC運営会社の物流子会社で経営管理の責任者を担うかたわら、物流・会計領域でのコンサルティング業務に従事している。